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高松高等裁判所 昭和35年(ネ)333号 判決 1962年7月23日

控訴人(原告) 船木鷹時

被控訴人(被告) 今治市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一二七万三、六九二円及び昭和三五年一月五日から控訴人が換地先において営業できる日まで一日につき金一、六五二円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、認否、援用は次に記載するほかは原判決の事実の部分に書いてあるとおりであるから、これを引用する。

控訴人の代理人は

損失補償金の請求のほか次のとおり主張する。すなわち

(一)  控訴人は今治市長の土地区画整理事業施行により住居及び営業所を明渡したため休業するほかなく、生活にも窮し、生存権及び営業権を侵害され、少くとも損失金補償の請求において主張したとおりの損害を被つた。この損害は右事業の施行に当り被控訴人の理事者が法の解釈運用を誤り、市民に対する被害防止及び損害補償につき当然払うべき注意義務を怠つたことに起因する。たとえ右事業の主体が国であつても、費用負担者たる被控訴人も亦右損害を賠償すべき義務を負つているから、国家賠償法第一条、第三条により前示申立どおりの金員の支払を求める。

(二)  また被控訴人の理事者は右事業を遂行するため、昭和三一年一二月二八日頃控訴人に換地を与え、そこへ控訴人の明渡した家屋を移築する旨控訴人を欺罔して家屋を明渡させ、よつて(一)と同様の損害を被らせたから、民法の不法行為の規定により(一)と同じ賠償を求める。

(三)  また被控訴人は昭和三二年四月一五日控訴人に対し住居及び営業所に適する家屋を新築して贈与する旨契約しながら、これを履行しないため、控訴人は(一)と同様の損害を被つたから、債務不履行を原因として(一)と同じ賠償を求める。

仮に損失補償金の請求の訴が不適法であるとしても、右各請求の訴は適法である。

と述べた。

被控訴人の代理人は「控訴人の右各主張は行政訴訟を通常訴訟に変更するものであるから許されない。また右の訴の変更は請求の基礎が違うから不適法である。右各主張事実をすべて否認する。」

と述べた。

理由

当裁判所も原審と同様に控訴人の土地区画整理事業施行に伴う損失補償を請求原因とする訴は前置手続を経ていないから不適法であると解する。その理由は原判決(理由の冒頭から一九行目までの部分)記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴人は国家賠償法第一条、第二条、民法の不法行為の規定及び民法の債務不履行に関する規定に依拠する主張をしたが、これらは従前の損失補償を請求原因とする訴につき、順次予備的に新たな請求原因を追加する訴の変更に該当すると解すべきところ、被控訴人は右変更は許されない旨申立てたから、その当否を考察する。

右訴の変更が相当であるためには訴の客観的併合の要件を具備しなければならないことは勿論であるところ、従前の損失補償を請求原因とする訴は行政事件訴訟特例法第一条に規定するいわゆる当事者訴訟に該当すると解すべきであるのに対し、右各追加の請求原因による訴はいずれも通常の民事訴訟法上の訴であつて従前の訴とその訴訟手続が異り、且つ当事者訴訟については抗告訴訟のばあいの右特例法第六条のような特別の規定も現存しないから、右訴の変更は訴併合の要件を欠くといわねばならない。従つて右訴の変更は不適法であるからこれを許さない。

そうすると本件審判の対象は原判決摘示の控訴人の損失補償の請求のみとなるところ、冒頭判示のようにその訴は不適法であり、これを却下した原判決はまことに相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

そこで控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 安芸修 東民夫)

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